シーズンリレー・ミニアルバム第4弾「秋彩aki-sai」セルフライナーノーツ

 

シーズンリレー・ミニアルバム第4弾「秋彩aki-sai」セルフライナーノーツ

“皆谷尚美CD"

はじめに言いますが、

これはもはやミニアルバムじゃない。
当初のコンセプトからは随分と離れて、
気がつけばかなりのボリュームになってしまいました。
でも、どれも外せなかった。
秋という季節だけが持つ澄んだ空気感、
今という世の中の混沌とした流れ、
どう考えてもこの歌たちが必要でした。
結果、
自分で設計したはずのレールの上を走っていないという、
なんともいい加減で、なんとも自分らしい作品になりました。

このアルバムを制作する前と後では、
見える世界が大きく変わりました。
デモ制作段階からいくつかの壁や落とし穴に翻弄され、
スタジオに通った夏の最中、
当たり前のようにひとつ歳を取り、
なんの心構えもできないままある日突然、
大切な人が空へ昇りました。

音楽には不思議だけれど確かな力があります。
俄然やる気が出たり、はたと冷静になれたり、
もやもやしていたのが少し和らいだり、
冷え冷えしていたのがじんわり温かくなったり。
ケミカルではないけれど、ちゃんと心と身体に作用します。
暮らしの中にいつもあって、ふとした瞬間にすっと入ってくる。
そして、思いがけず上記のような作用を施すのです。
私の歌も、そうでありたい。
誰かの心にそっとしみ込んで、
そういう効能が生まれたらいいなと思っています。
秋の夜長、じっくり聴いてもらえたら幸いです。

2014年10月1日 純米吟醸を呑みながら。 皆谷尚美

1. この道

寒い冬の間、私は工場に働きに出ました。
嘘でもいいから、今の自分を全否定してみたかったのです。
渋滞に紛れ、しらさぎ大橋を車で渡っていると、
出だしから降ってきました。急にです。
何度も何度もリフレインして、見ている景色を焼き付けながら作りました。
遠いこの街で、インディゴ、one dayと並ぶ、「自分応援、はじまりソング」です。
いつだって、すでに「はじまって」いるんですけどね。
もっと言えば、皆谷ソングの王道だと思っています。
道を曲がるには、まだ早いな。
こんな歳になってもまだ、こんなことが言えてしまう自分てば(笑

2. イルミネーション

街の喧騒からはじまります。
私は朝焼けも、日だまりも、夜空の月も好きですが、
ダントツで夕暮れが好きです。
たまに、犬を連れたまま立ち尽くして泣いたりします。ちょっと怖い;
クリスマスを待ちわびる街、人々、夕暮れの風。
どんなに深くて重たいため息でも、きらきら輝くこの景色は消せない。
あの頃の記憶も消せないんだなぁ。
タイトルは、これと、「12ヶ月」とで悩みました。
ちなみに、Aメロの「こうさてん~」という超短いフレーズは、
20回程度、NGを出しました。
まったく、人生の交差点をうまく渡りきれんヤツです。
だはは。

3. 時間よ止まれ

栄ちゃんではありません。
幼少時代から今もなお引きずっている、心の闇を綴りました。
10代最後の作品です。
1曲目、「この道」の中では、
「心細いなら立ち止まって空を見上げて歌おう」などと言っていますが、
ここでの場合は立ち止まりません。
心の内がどんなでも、同じ速さで歩かなくてはいけません。
明るい和音の中にも、同じ強さの闇があるというのを感じてもらえれば。
モノクロの世界で、空だけが青いイメージ。
これ以上なにも、思い出はいらない・・・
そんなことを思ってしまうくらい、絶望だったんです。
でも、生きていくんですよね。

4. To You~ママへ~

私はママになれません。
ある理由から、絶対にならないと自分で決めたからです。
でもここ1,2年で親しい友人たちがこぞってママになりました。
ちょっとふざけて「妊婦○号」と番号で呼んでいましたが、
10号を越えたあたりから、私の中で不思議な気持ちが生まれました。
この歳で、未知なる世界へ足を踏み出す勇気。
中には、とても長い時間をかけたり、
出口の見えないトンネルをくぐったりして、やっと授かった人もいます。
これまで体験したことのない身体の変化、
どんどん不自由になっていく日常、
無事に産まれてくれるのか、産んであげられるのか、
その不安といったら・・・
私なんかの想像は瞬時に越えています。
例えば、彼女たちの心境を細かくインタビューして、
ありがちなママソングを作ることも、できたのかもしれない。
でも、私のちっちゃなプライドがノーと言いました。
ママじゃないのにママぶった歌なんか歌えない!!
・・・ひねくれてます。
そこで、思いついたのがこのテーマ。
お腹の中からまだ見ぬママへ、呼びかけています。
頑張って僕を産んでね。
会えるのを楽しみにしてるからね。

かつては私も子どもでした。
そして、母親という存在への愛は不変です。たとえ今がどんなでも。
不安で、落ち着かない日々を過ごしているプレママたちへ、
この歌が少しでも役に立ったらいいな。

5. missing you

海辺です。
裸足です。
少し寒い、でも佇んでいます。
こんなにも自然に、「あなたに会いたい」と歌っている歌は
皆谷曲の中でもマレです。
なんせ、素直じゃないのがトリエなので。
オトナになってしまった証拠です。
ライブでは時々歌っていました。
壮大なオケも存在しましたが、削ぎ落としてシンプルにしました。
バイオリンと天然サックスが泣かせます。

6. ふうせんかずら

デザイナーの伊勢氏から、絶対アルバムに入れて!と言われていた曲。
彼の一存でアルバムデザインのモチーフにもなりました。
ミディアムバラードなので耳障りはよく聴こえるでしょうが、
冷静と情熱の間は紙一重状態です。
平然としていたい自分と、恨みつらみをぶつけたい自分が
水面下でひしめき合っています。
ふうせんかずらはつる性の植物で、白い小さな花を咲かせ、
ほおずきみたいな風船形の果実がなります。
黒い種には白いハート模様。
花言葉は、「永遠に、あなたとともに」。
なのに、一年草なんですよ。
今年もベランダで、ふるふると揺れています。

7. 涙とサヨナラ

帰り道、つないだ手、綱引き、砂埃、絵の具、傘・・・
こどもワードで歌詞を書きました。
小学生の頃、大好きだった子が転校していく寂しさを、
誰しも味わったことと思います。
勝手な大人たちは、心身ともに事前準備ができる。
でも子どもにとってはいつも急なのです。
きのうまで当たり前だったことが、突然そうじゃなくなる。
なんの確認も約束もできないまま、ただ黙って唇を噛んで見送るわけです。
ライブでは何度かやってきたので知っている人もいるかと思いますが、
エンディングで飛び出してくる春さん渾身のギラギラギターには、
どうぞ仰天してください。

8. Love is over

なななんと、17歳の作品です。
あの頃の私には予知能力があったのでしょうか。
19年の時を経て、ついに歌う決心がつきました。
イントロから歌いだすまでに、おにぎり1個食べれます。
・・・と言えるくらい長いです。
当時の私は、曲の長さや流行のリズムなんてまるで気にせず、
ただひたすらに音の持つ響きや世界感を優先していた気がします。
そして今回、久々に引っ張りだした記憶と向き合って、
今の自分とじっくり対談させましたが、
結果、ほとんど変えませんでした。
フレーズも伴奏も、歌詞も。
サビではタイトルを連呼します。
サビなのに、それだけ。
合いの手とか、コーラスとか、
いろいろ考えましたがやめました。
だって・・・愛は終わったのです。

9. 昼下がり

インストゥルメンタルです。
他のどのアルバムにも、必ず1曲はこういうのが入っています。
もとはといえば、今見ている風景を心に焼き付けたくて、
カメラのシャッターを切るみたいな気持ちで、
ピアノの鍵盤を叩き出したのが、私の作曲人生のはじまりでした。
木漏れ日の中、ひとつの物語が静かに終わっていくイメージ。
このアルバムはもちろんですが、
これまでのシーズンリレーがそっと幕を閉じる、
映画でいうところのエンドロールみたいな存在です。